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シュミレーション。
2009.07.26 Sunday
―1年前。
腕時計のサイズを変えようと思う。 穴の開いたバンドではないのでサイズの調整をプロに頼まなくちゃいけない。 しかるべき店でしかるべきサイズにしてもらう必要がある。ふと次の日のことを思い浮かべる。 お店に入ってこう言うだろう。 「すみません、この腕時計のサイズを変えたいんですけど…」 違う気がする。「ですけど…」という語尾がダメなのだ。おどおどしていて格好悪い。慣れていない感じが漂っている。(慣れてないけど)できれば「こいつ、やるな」と一目置かれたい。「只者じゃない」と思われたい。「サイズの変更をお願いします」も清々しくていいけれど、万が一、万が一、「当店ではそのようなサービスはいたしておりません」と慇懃に断られたりでもしたら惨事だ。とてもじゃないけど断られた後に清々しさを維持する気力はないだろう。 語尾に自信ある「お願いします」が一蹴されるのも怖いし、語尾が慎重な「ですけど…」が空に浮いてばらばらに砕けることを想像すると身が縮む。 シュミレーションをしていて良かった。 武器も持たずに戦場に行くところだった。 ここはひとつ準備が必要だ。googleで「腕時計 サイズ調整」で調べてみてどうやらサイズ調整のことを「コマ落とし」と言うらしい。武器が手に入った。 翌日、複合ショッピングセンターに入っている小さい腕時計のお店の前を2回ほど通り過ぎて店員を物色した。弱そうな(優しそうな)店員を発見できた。接客していないことをさらに確認してからお店に入る。 「すみません、この腕時計のコマ落としをお願いします」と言った。 「はい…腕時計の…なんですか?」 「…コマ落としを…」 「コマ、落とし…」 優しそうな女性店員の顔中に困惑が広がっていた。 カウンターの前の僕と女性店員の経緯を見ていた男性店員が寄ってきて 「サイズの調整ですね?」と言って僕の腕時計を手にとってカウンターの中へ戻っていった。 そうなの、サイズなおしたかったの。 おにいさん、ありがとう。 おねえさん、困らせてごめんなさい。 日本は平和でした。戦場はどこにもありませんでした。あるのは僕の頭の中です。 心入れ替えて素直になります。 ―先日 今日25日に発売されるはずの穂村弘の新刊「にょにょっ記」が本屋にない。 新刊のコーナーにない。 エッセイコーナーにない。 詩歌・短歌コーナーにない。 平積みされてない。棚にももちろんはいってない。 参った。店員に聞いてみねば。いや、待て。何て言うんだ。 「穂村弘のにょにょっ記って入荷してますか?」 「はい、調べてみますね。えっと…本のタイトルをもう一度お願いします」 御免こうむりたい。何が悲しくて25にもなって拗音2個も人前で発音せにゃならんのだ。 ドストエフスキィの拗音はオシャレだがにょにょっ記は間抜けだ。 シュミレーションが必要だ。…よし。 「すみません、穂村弘の新刊って入荷していませんか?」 「はい、調べてみますね。えっと…に、にょにょっ記ですか?」 「はい」 「申し訳ありません、27日に入荷するみたいですね」 申し訳ないことしたなぁと思った。 普通に発音できるだろうに吃音しちゃって。 可哀想な店員。悪いのは僕だけど。いや、穂村さんかな。 Typical/ Mute Math サマソニだとか。いい曲。いい不思議ビデオ。 世界のフラワーロード
2009.07.08 Wednesday
高校1年の頃に初めて中村一義の「ERA」を買ったのだ。それは衝撃的だった。いや、衝撃的、とは違う。突き動かすほどのものではなかった。感動、というほどノスタルジーでもない。うまく言い表せないけれども、それは魔法にかかったようだった。瞼をゆっくりとじて、またゆっくりと開けるとき、見ていた風景がほんの少し華やぐ。目を閉じなくても見ている風景と少し違う風景が想起される、そんなささやかで小さな魔法。僕はとり憑かれたように毎日毎日飽きもせず聴いていた。 歌詞がいい、と言われるアーティストや、楽曲が取りざたされるアーティスト。中村一義はそのどちらのカテゴリにありながらも矛盾している気がしてならない。 実際歌詞は聞き取りにくいし、「金字塔」や「太陽」のアルバムは宅録で音もこもっているし、演奏も拙いものが多い。だけど良いのだ。だから魔法なのか。 100sになって一番変わったのはドラムの音だと思った。少しもたつく中村一義自身のドラムの音が消えてから、僕の中でなにかが褪せた。音の幅が拡がると、いよいよ聴く回数が減った。音楽は不思議だと思う。 今回のアルバム「世界のフラワーロード」は、音の幅もドラムの音も100sでありながらも中村一義の色を彷彿とさせる一層不思議なアルバムだと思った。想起する風景が懐かしいのに、音が新しい。「魔法を信じ続けるかい?」はおもわず歌詞にニヤリとしてしまう。「そりゃそうだ」も「モノアイ」もシングルカットされていて、既に耳にしているのに良さが際立つ。名文が文脈に埋もれてなお光るのと同じように。 アルバムを通して聞いた後、全肯定というよりも、オノ・ヨーコの「YES」のような、声もない頷くくらいの優しい肯定が迎え、包み込まれる。しばらくこの風景を堪能する日々が続きそうだ。 モノアイ/100s 読書メーター6月まとめ。
2009.07.07 Tuesday
部屋を整理していたら昔のMDが大量に出てきた。最近ちょっと昔の音楽を聞くことが多い。その時期その時期の自分内ベストのようなMDも何個か出てきて聞いてたりするのだけれども、とてつもなく恥ずかしい選曲の数々でのたうちまわりたい気分。俯瞰の視点で、冷静になればこんなに恥ずかしいのだけれども、その時その瞬間は確かに自分のベストだった。今もまた、パソコン内には自分の選曲で組んだベストの音楽があるのだけれど、これも後から聞いたら恥ずかしく感じるときがくるのだと思う。後になって恥ずかしい、ここはそうじゃないだろ、と思うのは、俯瞰の視座を得ているからだと思う。 けれども俯瞰の視点というのはどこまでいってもさらに高い俯瞰の視点がありうる。つねに一つ前を凌駕するが一つ後に凌駕される可能性を孕んでいる。そう考えると、この俯瞰の視点を支える底辺(昔のMD)は自分のオリジンとして大切にとっておいてもいいのだと思うようになった。のたうちまわりたい気分をおさえてしばし懐古趣味。
6月の読書メーター 読んだ本の数:7冊 読んだページ数:2227ページ 疾風ガール (光文社文庫) 誉田哲也は脇役がいい。塔子さんのホステスとしての自虐的悩みや、夏見が前にいたバンドのマキの言葉。「周りの人間が、自分と同じくらい輝いて見えちゃうのかもね。有頂天だからね、夏見は…でもね、周りが輝いて見えるのは、それはあんたが照らしてるからであって、その人の背中は、実は真っ暗になってるってこと、あるんだよ。そのどす黒い闇が、あんたからは死角になってて見えないんだよ」。夏見の行動の裏で傷ついていたマキが夏見を救ってくれる。なんておいしいところを持っていく脇役なんだ!ガール・ミーツ・ガールの脇役に期待。笑 読了日:06月25日 著者:誉田 哲也 スプートニクの恋人 (講談社文庫) 記号がイコールであるならば、「こちら側」(現実)の存在は記号的で、「あちら側」(夢の世界)というのは極めて象徴的なのだろうか。あちら側からの言葉はないけれど、こちら側に残された人々の弧絶が色濃く書かれている。村上春樹の文体に出会いたくなったらたまに読み返したい。 読了日:06月21日 著者:村上 春樹 金メダルへの道 オリンピック直前に曲目を変える、コーチを変える、といった一見遠回りにも思えるこの選択が、彼女らしさのスケートを作っていったんだと思うとテレビで何気なく見ていたスケートという種目の層の厚さとオリンピックという大舞台に立つ緊張感、葛藤がまざまざと伝わってくる。美しい演技も難易度も決して妥協しなかった故の金メダルだったのか。 読了日:06月16日 著者:荒川 静香,NHK取材班 鹿鳴館 (新潮文庫) 青い花の演劇の題材なのでちょっと予習。初めての戯曲だったのだけれどもこれほどに読みやすいとは思わなかった。短い話なのにそれぞれの思惑がぎっしり詰まっているし名言も多い。読みやすいのに深い。だから名作なのか。影山と飛猿の鬼畜っぷり!久雄の頭の固さ!こんな馬鹿な男たちの手に権力があるというだけで振り回されてる女性もたまったものじゃなかろう。この作品の中での登場人物は大切なものを失っていくのだけれど、一人勝ちを決めた人がたった一人。草乃である!笑 読了日:06月12日 著者:三島 由紀夫 風の中のマリア 「あわせてひとつの生き物」という台詞の通り、ワーカー、女王蜂2つを含めて一つの単体なのかもしれない。もちろん蜂の物語だけれども、これはメタフォリカルされた人間の女性の生き様とも読み取れる。ワーカーは仕事しか知らず、女王蜂は産むことしか知らない。互いの悩みは尽きることも解決されることもないのだけれど、互いが互いを補いあって生きていく。命は常に新しい命への生け贄なのだ、という田口ランディーの言葉を思い出した。自分の使命とは何なのか、蜂から教わることもあるのだ。筆者の着眼点に◎ 読了日:06月12日 著者:百田 尚樹 DIVE!!〈下〉 (角川文庫) (角川文庫) タイプの違う3人の天才がしのぎを削って飛び込みのオリンピックを目指す青春小説。3人それぞれの個性が全面に出ていて手に汗を握りながらも一気に読みきった。最後はベタな終わり方だったけれども読後感がこれ以上無い爽やかさ。夏になったらまた読みたい作品。 読了日:06月09日 著者:森 絵都 DIVE!!〈上〉 (角川文庫) (角川文庫) 読了日:06月01日 著者:森 絵都 読書メーター 6月は正直あんまり読書をしていなかった。バルガス=リョサの「楽園への道」なんて図書館で借り直しに借り直しを重ねて1ヶ月近く手元においている状態だ。漫画も精力的に読んでいた。手塚治虫のMWと、アドルフに告ぐ。どちらもなかなか重厚でおもしろい。 こんな6冊の中から一番を決めるのは苦しいのだけれども、6月ベストは鹿鳴館です。 これもまた、あとから恥ずかしいと思うときがくるのでしょうか。はたして。 先週たち。
2009.07.03 Friday
先週は人と程よくコミュニケーションをとった気がします。
家庭の事情で少し塞ぎこんでいたのですが、その甲斐あってか今は少し上向き加減です。 人と語らうこと、会うこと、遊んでリフレッシュをすること、それができるのは友だちがいるから。 友だちって偉大だ。バカをやったり言ったり、それがどれだけ重要なのか。確認ができたというよりも初めて実感できたという感じ。電話で励ましてくれた田沼くん、心配してくれたタクヤ、会って話を聞いてくれた田辺さん、一緒に遊んでくれた森山さん、どうもありがとう。 語らい:ブログで知り合ったえみさん、shinkaoさんと最近とみにメッセをしている。本を読んでも語らう仲間がリアルでいない僕などにとっては貴重な仲間。音楽の話もするけれど、大抵が本の話か文章についての話。お互いがお互いの文章について思っていることを容赦なく言い合えて本当にいい刺激になる。 僕は文章を書くとき、というかブログを書くとき、順序やオチを決めて書くことがほとんど。まっさらの状態から文章を起こしたり、素材だけで書いたりということをしない。枕があり、実際に体験したことがあり、本の引用を入れ、オチをつけるというのが通例。文章に対しての支配欲が強い。 一方えみさんは文章に対しての支配欲はあまりなく、素材だけを用意して、言葉を入れ込み、その言葉から、流れや感情をのせている人。shinkaoさんはマルチな人で、支配して書くこともあるし、言葉に任せて書くこともするという人。先日、shinkaoさんが「高校のときにはノートに詩とか書いていた」と言っていてなるほど、そういう土台があったのかと思った。それぞれが違う色を持った面白い3人組。今日は素材だけを用意して書いているので取り留めがない感じになりますよ。 メッセで「くぅん」と書くと二人とも「よしよし」と言ってくれます。寛大なのです。25歳ですが問題ないと思います。 邂逅:田辺さんと熊谷「さくら水産」(すごい安っぽい名前であり、実際安い店)で語り呑み。傷の舐め合い2009(トゥーサウザンドナイン)と題した呑みでしたが、実際は近況というよりも思い出話が主なもの。「もう10年前なんだよねぇ」なんていう言葉も飛び出す僕らの出会いは高校1年。高校1年がもう10年前のことになるのだからなんとも言えない。そうか…あれが、10年なのか、としんみりするというよりも「信じられん!」というこの感じ。10年という期間をあと5回ほど繰り返すと男性の平均寿命に届くってかい!ヘレンケラーにwaterを覚えさたときのサリバン先生のような感動が僕の人生にありますように。果報は寝て待て。 『人間の間違いってのは、常に期待して待つことじゃないかな』 花の降る午後/宮本輝 店の会計は2人で1500円を出しておつりがきた。大丈夫かいなこの店。 次回の卓球を楽しみに待ちます。打倒かっきぃ。 遊び:若いときの無茶は買ってでもするもの。お互い心に重荷を抱えた三人で遊ぶ無謀。田沼くん、森山さん、田島の3人で目指す由比ガ浜。これで今年何回目だったっけ。 田沼くんの手料理ハヤシライスはおいしかった。ごちそうさまでした。彼の部屋でラーメンズのDVDをつけて、森山さんは日本酒に肴のキムチをつまんでいい気分。田沼くんは森山さんの友だちの悩みを聞いていて、僕は2人の横で深海生物の本を読む。癒される午後。午睡にぴったりの空間。前日の天気予報では雨の予報だったのだけれども、嘘のような快晴。 しばらく深海生物の本を読みふけっていると2人が「男って単純だよな」と言って笑っているので「どうした?」と聞けば、聞いてよ、と田沼くん。 「森山のmixiさ、本人の画像が出るとめっちゃ男のコメント多いんだよな。それで結婚するって日記があって以降、もう男のコメントまったくといっていいほど無くなったんだ」 はぁーあるんだぁ、そういうことって実際。まぁ森山さんは性根腐ってるからそのことを楽しめるしいいけど。 森山さんを見ると「けっ」という態度でまたキムチつまんでら。罪つくりのかわいい奴め。 海を目指すぞ、と言って田沼くんの家を出たのが18時ちょい過ぎ。後ろの席で横になって眠りこけた森山さんを尻目に男2人でゆっくり話す。田沼くんは会話レベルを人によって変えることのできるいい大人だ。2人以上になると、とたんに笑わそうというサービス精神旺盛なキャラが表に出てくるけど、こういうのもたまにはいいね。僕の事情を気にしてくれながらも敢えてつっこんで聞いてこない態度は、親切がおせっかいになることを知らない子供じゃできない引き算の優しさだ。 約1時間で海について、日も落ちているけれど一通り砂浜で戯れておしゃべりをしてきた。 帰りもまた森山さんと長いドライブだったのだけれども、ここでもしっとりゆっくり語った。というか、僕はどうも人にしっとりと話をさせてばかりいる気がするな。まぁ人の話を聞くのは好きだからいいけどね。 謎のコール:おととい夜中の3時に突然携帯に原田さんからの電話。え?こんな時間になに?と思いながら通話ボタンを押すと「たじまー!こらー!出て来ーい!」と叫ばれた。わけがわからないのでとりあえず切っておいた。次の日にメールで「何かあった?」と尋ねたら「何が?」という返事。別に、と返しておいた。このブログを読んでいたら、また連絡ちょうだいね。 田沼くんと森山さん。由比ガ浜の日は落ちて、もう海も見えないや。 ゴースト・ソング/APOGEE キリンジっぽいのに歌だけじゃない。おいしい奴らめ。
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