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夏の魔法
評価:
北國 浩二
東京創元社
¥ 1,785
(2006-10-24)
―さよなら、残酷な世界。わたしの人生は、もうすぐ終焉を迎える―二十二歳の老婆は、少女の頃の輝かしい思い出に満ちた南の島で、人生最後の夏を静かに過ごすはずだった。しかし彼女はそこで、逞しく聡明な青年に成長したかつての初恋の相手と再会する。劇的な容姿の変化のため、中学時代に恋した相手が目の前にいることに気づかない彼の隣には、美貌の女性が明るい笑顔を浮かべて立っていた―「魔法」は、彼女たちに何をもたらしたのか?緑濃い真夏の島でゆっくりと進行する、哀しい願いの物語。

 タイトルが気になったもので手にとった本作。登場人物はそんなに出ていないので、一見してシンプルな相関図ができあがるが、彼らを取り巻く「感情」の相関図が残酷なことこの上ない。主人公である夏希が健康であれば、このようになっていたに違いない、という人物に美しい沙耶がいて、夏希の初恋相手のヒロは、昔とちっとも変わらず、夏希のことを忘れられないと洩らす。民宿内海の息子である良介は、沙耶のことが好きだが、沙耶がどうもヒロのことを好きなのに気づいてる様子で、手も足もでない。
 自分の人生の最後に、最良の時間を見つめなおすという夏希のひとり旅は、予想以上に達成される。夏希とヒロの2人だけでも十分に物語として機能するだろうけれども、沙耶が物語に厚みを、良介が意味を与えているという点で、非常に味のある脇役だ。
 この作品のファクターを3つほど取り出すとすると、罪、美、代価じゃないだろうか。 登場人物たちは、それぞれ何かを手に入れるために、罪を犯し、代価を支払う。その代価が高すぎる者もいれば、何も手に入れない代わりに代価も支払わない者もいるし、罪も代価も高くつく者もいる。
 そしてこの物語を構成するのは起承「転転」結。無理を感じさせない展開で惹きつけ、終盤からラストまで一気に読みきった。
 他のレヴューを読んで、あまりラストを評価する向きはなかったのだけれども、そんなことはないと思う。無意味を並べ立てて意味のあるように見せかけ、ラストを衝撃にさせておけばOK、というような恣意的な作家の作品とは一線を画している。丁度良い突き放しで読者に考えを委ね、抑制が効いている。
 星は5個までしかないので5個です。もっとあればいいのですが。
 とりあえず、(かなり抑制を効かせて)最高です。
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