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夏の魔法
2008.11.11 Tuesday
タイトルが気になったもので手にとった本作。登場人物はそんなに出ていないので、一見してシンプルな相関図ができあがるが、彼らを取り巻く「感情」の相関図が残酷なことこの上ない。主人公である夏希が健康であれば、このようになっていたに違いない、という人物に美しい沙耶がいて、夏希の初恋相手のヒロは、昔とちっとも変わらず、夏希のことを忘れられないと洩らす。民宿内海の息子である良介は、沙耶のことが好きだが、沙耶がどうもヒロのことを好きなのに気づいてる様子で、手も足もでない。 自分の人生の最後に、最良の時間を見つめなおすという夏希のひとり旅は、予想以上に達成される。夏希とヒロの2人だけでも十分に物語として機能するだろうけれども、沙耶が物語に厚みを、良介が意味を与えているという点で、非常に味のある脇役だ。 この作品のファクターを3つほど取り出すとすると、罪、美、代価じゃないだろうか。 登場人物たちは、それぞれ何かを手に入れるために、罪を犯し、代価を支払う。その代価が高すぎる者もいれば、何も手に入れない代わりに代価も支払わない者もいるし、罪も代価も高くつく者もいる。 そしてこの物語を構成するのは起承「転転」結。無理を感じさせない展開で惹きつけ、終盤からラストまで一気に読みきった。 他のレヴューを読んで、あまりラストを評価する向きはなかったのだけれども、そんなことはないと思う。無意味を並べ立てて意味のあるように見せかけ、ラストを衝撃にさせておけばOK、というような恣意的な作家の作品とは一線を画している。丁度良い突き放しで読者に考えを委ね、抑制が効いている。 星は5個までしかないので5個です。もっとあればいいのですが。 とりあえず、(かなり抑制を効かせて)最高です。
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