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ポトスライムの舟
評価:
津村 記久子
講談社
¥ 1,365
(2009-02-05)
少し前のブログ記事でも書いたことだけど、津村記久子の「ポトスライムの舟」がとてもよかった。
 本編のあらすじだけでいえばとても簡単。主人公であるナガセ(女性)は2つの仕事をもっている。(どれも契約社員)ある日世界一周旅行のポスターを見て、それが自分の仕事の年収とほとんど同じということに気づき、それと同額のお金を貯めようと決心し、お金をせこせこ貯めることに邁進していくという話。
 このあらすじだけだと、ちっとも面白いと感じないだろうけれども、池澤夏樹氏も評していたようにナガセは「生活の優等生」なのだ。
 以前勤めていた会社の上司のモラルハラスメントが原因で退職をしたナガセは、一年の休職期間を経て、ふたたび社会人として働き始めるのだけれども、責任感のない流れ作業の仕事の中でともすれば立ち返ってしまいそうな「なんで働いてるんだっけ?」とか「こんな仕事、将来の約に立つんだろうか」というような考えを抱かないようにするために「今がいちばん働き盛り」という刺青を腕に彫りたいと考えてみたり、世界一周旅行と同額の金額を貯めてみる、という嘘の口実を仕事に持ち込み励むことで一応乗り切ろうと努力しているように思えるのだ。
 以前勤めていた会社のことを思うナガセは「人間関係が良好の職場というのが得がたい幸福」であることを身にしみて感じていて、夏の雲を見上げる場面や、友だちの子どもの描いた大好きないちごが不味そうに見えることなどが、立ち位置の違いで見るものの気持ちが違うということを簡潔に表現しているように思える。
 得がたい幸福であることを知っていて、なのに仕事がつまらないという場合、嘘の口実でもなければやっていけないというのは真実だと思う。嘘でもいいから働くんだ、という態度はまさに「生活の優等生」だ。「仕事の優等生」になろうとするなら世間に跋扈している「好きなことを自分の仕事に」とか「適職診断」なんてのをすればいいと思う。それがまさに生活の優等生を鬱々とした気分にさせていることをどうぞお忘れないよう、迷惑にならない程度に。
| 津村記久子 | comments(5) | trackbacks(1) |