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毎日新聞夕刊。
 5月19日の毎日新聞夕刊に奈良・十輪院住職の橋本純信さんが裁判員制度について少し言及していて、おもわず「?」と首を傾げたくなる発言だったのでちょっと考えている。以下、記事内容。

 死刑判決を下す可能性がある裁判員制度には反対だ。仏教には人を殺してはならないという教えがある。だから、私は死刑を選択することはできないし、死刑は廃止すべきだと思っている。人が人を殺す戦争に反対しながら、死刑を認めるというのは矛盾している。
 裁判員制度が始まって私が個人として裁判員の呼び出しを受けたとしても、法廷では僧侶、宗教者としての立場で発言しなくてはならないだろう。いつも「人をあやめてはいけない」と言っているのに、結果として死刑判決に加わってしまえば、周りの人間は疑問を抱くだろう。
 私の信念として、裁判官や他の裁判員の全員が死刑を選んでも、私は反対するしかない。どんなに極悪な事件を起こし、更正の余地が無いという被告であっても、一生罪を償い、世の中のために刑務所で尽くしてもらうという判断になる。 
 どんな悪い人でも良い心を持っている。良い心を引き出すのが僧侶の役割だ。僧侶が裁判員になって、法廷で被告人に質問をすることで、立ち直らせることができるかもしれない。しかし、窃盗など比較的軽い罪ならともかく、殺人や強盗致死傷など重大事件では、説教で改心させられるか疑問に思う。


 うーん、全体的に毒にも薬にもならないいかにも新聞記事的な(あるいは日本人的な)発言という印象。うすぼんやり。
 そんな発言の中にあって『人が人を殺す戦争に反対しながら、死刑を認めるというのは矛盾している』という箇所が腑に落ちない。同列に語っていいの?戦争と殺人。
 殺人は巻き込んだ人の人格が反映されるけれど、戦争は巻き込まれた人の人格は反映されていないじゃないの。ありがちなミステリーなら「犯人もまた、社会という名の怪物の被害者だったのかもしれない」的な終わり方もあるかもしれないけれども。
 そしてまた、『どんな悪い人でも良い心を持っている』なんて言う性善説信奉者が最後に『説教で改心させられるか疑問に思う』なんて逃げを打つあたり締まらない。どっちやねん。
 裁判員制度という名目で書いているので被害者サイドに対しての発言はなかったけれども、もしもどんな悪い人でも良い心を持っているというのなら、極刑を望みます、という被害者側へのケアこそ僧侶の役目では?などと思っちゃうのでした。
 
 そんな毎日新聞の夕刊には穂村弘さん整形前夜の紹介も。エッセーを書くときは「緊張して」いるという。それは何でも「なぜ人は死ぬのか。(みんな死ぬと決めた)神様の初期設定に異議申し立て」をしているからだとか。

 我が意を得たりと思ってらっしゃる僧侶の話と、なんで人は死ぬのかという問いでずっと立ち止まっている穂村氏の発言。なんとも対照的な記事を掲載している毎日新聞夕刊でした。




The Predatory Wasp of the Palisades Is out/Sufjan Stevens

この透明感はスゴイ!
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まただよ。
4月6日朝日新聞夕刊に、面白い記事が載っていた。
池上彰の新聞ななめ読み、というトピックだ。以下引用。
このところ毎週月曜日の本紙「朝日歌壇」から目が離せません。「(ホームレス)公田耕一」氏の短歌がしばしば掲載されるからです。
 「公田」氏のことを本紙が社会面で最初に取り上げたのは2月16日のこと。「ホームレス歌人さん連絡求ム」という見出しの記事でした。投稿はがきの消印は「横浜」で、本人は横浜市中区寿町あたりにいることを明かしていますが、住所は不明。ホームレスの生活を詠った真に迫る作品が毎週のように掲載されているが、投稿謝礼を贈ることもできないので、連絡をとりたいという記事でした。
 「公田」氏は自称ホームレス。新聞社としては、本人が本当にホームレスの生活をしているか裏づけ確認をしないと取り上げられないテーマではありますが、確認の方法がありません。そこで、この記事では、「経歴も年齢も不明だが」と付記しています。朝日新聞社としてホームレスであることを確認したわけではない、ということがわかるようになっています。
 この記事掲載後、3月9日朝刊の社会面には、「公田」氏から連絡があったこと、「連絡をとる勇気は、今の私には、ありません」という添え書きがあったことが紹介されました。
 「公田」氏の記事が掲載された2月16日と3月9日は、いずれも月曜日。「公田」氏の作品に、選外ながら次の歌があったからだそうです。
 百均の「赤いきつね」と迷ひつつ月曜だけ買ふ朝日新聞
 百円均一のカップ麺を我慢して朝日の朝刊を買っているようなので、月曜朝刊に記事を掲載すれば、本人の目に留まるだろうというわけです。読者と対話しようという新聞社の姿勢が感じられます。 


 ついこの間もホームレスのことをブログに書いたのだけれども、またホームレスの話。ここまでくると、なにかしらホームレスに肩入れしている感じが否めない。いったい何の魅力があるんだろう、と考えていて「謎」という単語が浮かんだ。
 そう、ホームレスは謎なのだ。まず連絡がとれない。どういう人なのかわからない。生きているのか死んでいるのかわからない。社会に属していない、もしくは黙殺されている。
 フリーメイソン、クー・クラックス・クラン(KKK)等の秘密結社、ヒーロー戦隊だって主要のグリーンとかレッドとかピンクなんかより、ブラックとかのほうが何か魅力がある。レザボアドッグスという映画で、マフィアの悪党同士、色の名前で呼び合おうということになる場面があるのだけれど、いざ色を決めようというときにボスが「ブラックはみんなが取り合うからナシだ」なんて言っていたっけ。そうか、海を越えてブラックが、謎が、魅力なんだ。
 そういえば、中学生のころに「たじまくん」と女の子に呼ばれ、そちらに目をやると、ちょっとちょっとこっちきて、的なポーズで呼んでいて、呼ばれたとおりに行ってみると「やっぱいいや、ごめん、なんでもない」と言われた覚えがある。人生でもっともラクに相手のことが気になってしまった瞬間だった。悔しいぜ。
 朝日新聞に投稿している公田さんの1週間に1度というもどかしいタイムラグにやきもきしつつ、心待ちにしているこの感情は、恋愛に通じるものがあると思う。
 今日読みおわった春日武彦×穂村弘の対談集「人生問題集」で、穂村弘がこう言っていた。
 
穂村:恋愛のときめきが減少するのを防ぐために、本来は秘密でもない情報をわざと明かさないというエッセイを書いたことがあって、血液型や年齢や故郷を年に一つづつ明かしていって、最後に死の床で初めて名前を教え合うわけ。恋愛初期に盛り上がるのは、やっぱり相手が秘密の塊だからなんだよ。でも、今は一対一の関係だけではなくて、マスメディアでも誰も秘密の塊ではいられないんだ。新たなヒーローが生まれたら、あっという間に「私が育てた○○ちゃん」みたいな本を両親が書き上げて、猛スピードで消費されていくでしょう。

 まさにリアルタイムで朝日紙面でくりひろげられる週に一度の秘密の往復書簡。これは池上彰でなくても気になるところです。どきどき。

Rich girl/The virgins
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誉めてやりましょう。
 3〜4日前に「かもめ食堂」のDVDを借りて、おお、日本の映画、いいじゃん。と思ったついでに、小林聡美のドラマが見たくなって、「すいか」を借りてみた。これまたいい。もう返却もしてしまったので何話か忘れてしまったけれども、主人公の基子(小林聡美)が、上司に「引越し祝い、何かやらなくちゃね。何が欲しいか考えておいて」と言われて、何日間も悩み抜いた末、「誉めてください」と言ったシーンがものすごくよかった。困惑する上司に、自分で作ってきたセリフを読み上げさせ、隣に座って神妙に聞いているという、そういうシーン。
 働いているのだし、お金に困っているわけでもない、物であれば自分で買えるし、相手から物を貰う、というのは形は残るけれども、遺るものではないのかもしれない。そう思ったのは、毎日新聞の夕刊に載っていたコラムを読んだから。
 こんな話。
 ある私立中等部のクラスで先生がクラスメートそれぞれのいいとろこをみんなに書かせ、それをリストにして一人一人に手渡した。生徒の一人であるマークはその後ベトナム戦争で戦死するのだが、マークの両親は葬儀に参列した先生に「息子は死んだ時、これを身につけていました」と言って、今では形見となったそのリストを取り出すのである。
 
 この記事を読み、はて、自分に遺っている言葉はあるのだろうか、と我が身を省みるのだけれども、なかなか出てくるものでもないらしい。今度ぼくに会ったとき、どこかしら誉めてもらえると嬉しい。また、ぼくに出会わずとも、誰かを誉める、ということは国を超えて喜ばれることであることを覚えておいてもらいたい。
 
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